揚げたての先端を割ると、鶏の香りが出てくる
ブラジルの街角で軽く何か食べたいとき、ガラスケースの中にまず見つかるのがコシーニャです。しずく形の揚げ物を紙ナプキンで受け取り、先の方からかじる。薄い衣がさくっと割れて、ゆで汁の香りを含んだ生地と、ほぐした鶏肉の具が出てきます。コロッケに似ているのに、じゃがいもではなく鶏のだしで練った小麦生地が主役なので、食べた印象はかなり違います。

コシーニャ(coxinha)は、ポルトガル語で「小さなもも肉」のような意味を持つ名前です。形は鶏のドラムスティックを思わせるしずく形。中身は細くほぐした鶏肉で、地域や店によってはクリーミーなCatupiryやレケイジョンを混ぜます。日本でCatupiryそのものを探すのは難しいので、このレシピではクリームチーズと少量のゆで汁で近い口当たりに寄せます。
家庭で作る山場は三つあります。鶏をゆでた汁を捨てずに生地へ使うこと。具の水分を飛ばしすぎず、でも生地を濡らさない濃さにすること。そして、180度C前後の油で短時間に色づけることです。ここを押さえると、日本の鶏むね肉、薄力粉、パン粉でも、ブラジルの軽食店らしい「外は細かく香ばしく、中は鶏のうまみが残る」コシーニャになります。
ブラジル料理を続けて作るなら、コシーニャは大皿料理の前に出す軽食として便利です。肉を主役にするシュラスコ、黒豆を煮込むフェイジョアーダ、肉汁を受けるファロファと並べると、同じブラジルでも「軽食」「煮込み」「炭火」「粉もの」の違いが見えてきます。
コシーニャの起源には、サンパウロ周辺で広まった説、鶏のもも肉を好む子どものために形を似せたという逸話などがあります。海外資料でも細部は揃いません。本記事では「形が鶏のもも肉に似ているブラジルの軽食」として扱い、伝説を確定史実としては書きません。
コシーニャの物語 — ランショネッチで育ったブラジルの軽食

コシーニャは、家庭料理であり、店の軽食でもあります。ブラジルのランショネッチ(lanchonete)やパダリアでは、朝から夕方までガラスケースに揚げ物が並びます。コシーニャ、パステル、キビ、ポン・デ・ケージョ。大きいものなら一つで軽い昼食になり、小さいものなら誕生日会や親戚の集まりで何十個も並びます。
英語圏やブラジル系の料理記事では、コシーニャは「shredded chicken and cheese covered in dough, breaded and deep-fried」と説明されます。つまり、肉をそのまま揚げるのではなく、鶏のうまみを含ませた生地で包む料理です。Panelinhaのレシピでも、最初に良い鶏のゆで汁を作ることを重要な工程として扱っています。ここが、日本の普通のチキンコロッケとの大きな差です。
本場の店ではCatupiry入りをよく見かけます。Catupiryはブラジルのクリーミーなチーズブランド名として知られ、コシーニャの中で鶏肉をしっとりまとめる役をします。日本では同じものが手に入りにくいため、クリームチーズだけで濃くするより、鶏のゆで汁を少し足して、具が固まりすぎないようにします。モッツァレラのように伸びるチーズを主役にすると別料理に寄るので、今回は「鶏肉の具をしっとりさせる」方向に寄せます。
現地らしさを保つために、形も大事です。丸いコロッケではなく、底がふくらみ、上がすっと尖るしずく形。完全に同じ形にならなくてもかまいませんが、上を細く閉じることで、かじった時に生地、具、衣の層が一度に入ります。形は見た目のためだけではなく、食べ方にもつながっています。
調理のコツ — 破れない形と油温の考え方

コシーニャの失敗は、味よりも形に出ます。揚げている途中に割れる、底から具がにじむ、衣がはがれる。どれも原因はだいたい決まっています。
生地がべたつく場合は、練り不足です。粉を入れた直後にまとまっても、そこで火を止めると水分が残ります。鍋底に薄い膜ができるまで2〜3分余分に練ると、手に付きにくくなります。逆に冷ましすぎて割れる場合は、ラップをかけて保湿し、手で軽くもんでから成形します。
具が水っぽい場合は、チーズを増やすより先に炒め方を見直します。鶏肉、トマト、ゆで汁を入れた後、弱めの中火で水分を飛ばし、木べらで持ち上げた時にまとまる濃さにします。汁が流れる具を入れると、生地の内側から濡れて閉じ目が開きます。
衣は二度付けにすると頑丈になりますが、家庭では一度で十分です。大事なのはパン粉の細かさです。大きいパン粉は見た目が粗く、先端に厚く付きやすい。フードプロセッサーで軽く砕くか、袋の上から麺棒で少し細かくすると、軽食店風のなめらかな表面に近づきます。
油温は180度Cを基準にします。成形済みの中身はすでに火が通っているため、揚げ物としては「温めながら衣を固める」工程です。低温で長く揚げると油を吸い、高温で一気に揚げると先端だけ濃くなります。鍋に入れすぎず、3〜4個ずつ揚げる方が安定します。
アレンジと食べ方 — 大きい軽食、小さいパーティー用

店で買うような大きなコシーニャは、一つでかなり満足します。家庭では少し小さめに作る方が包みやすく、揚げ油の温度も安定します。12個取りの基本を覚えたら、24個取りのミニサイズにしてもよいです。その場合は、具を小さじ2、生地を25gほどにし、揚げ時間を2分前後へ短くします。
Catupiry寄せにしたい場合は、クリームチーズ60gに牛乳小さじ2を混ぜて少しゆるめます。さらに塩をひとつまみ加えると、甘さより塩気が前に出ます。モッツァレラを入れる版もありますが、伸びる楽しさが強くなり、伝統的な鶏肉の具とは印象が変わります。最初は鶏肉とクリームチーズの配合で作ってください。
辛味を足すなら、具に唐辛子を入れるより、食べる時のソースで調整する方が失敗しません。ブラジルの軽食店では赤いペッパーソースを少量つけることがあります。日本の台所なら、酢、唐辛子、にんにくを混ぜた簡単な辛味ソース、または市販のチリソースで十分です。
献立として出すなら、コシーニャは前菜寄りに置きます。黒豆のフェイジョアーダを主菜にする日は、コシーニャを小さめに。肉を焼くシュラスコの日は、先に数個だけ出すと、待ち時間が楽しくなります。揚げ物同士で重くしたくない日は、モケッカ・バイアーナのような煮込み魚料理と合わせるとバランスが変わります。
保存と作り置き — 冷凍は揚げる前がいちばん楽

コシーニャは手間がかかるので、作るなら多めに仕込む価値があります。ただし、揚げた後の保存より、揚げる前の冷凍の方が仕上がりは安定します。
成形してパン粉まで付けたものを、バットに間隔を空けて並べます。冷凍庫で2〜3時間固めてから、保存袋へ移します。この順番にすると、袋の中でくっついたり、先端が潰れたりしにくいです。家庭の冷凍庫なら2〜3週間を目安に使い切ると、冷凍臭が出にくくなります。
凍ったまま揚げるときは、油温を170度Cにします。180度Cで揚げると表面が先に濃くなり、中が冷たいまま残ることがあります。4〜5分、泡が落ち着き、全体が黄金色になるまで揚げてください。中心まで温まっているか不安な場合は、1個を割って湯気と温かさを確認します。
揚げたコシーニャは、粗熱を取って冷蔵で翌日までが目安です。温め直しは電子レンジだけだと衣が柔らかくなります。600Wで30秒温めてから、トースターまたは180度Cのオーブンで4〜5分焼くと、表面が少し戻ります。完全に揚げたてには戻りませんが、朝食や弁当の小さなおかずには使えます。
よくある質問
コシーニャはじゃがいもを入れる料理ですか?
入れるレシピもありますが、必須ではありません。小麦粉と鶏のゆで汁だけで作る生地も一般的です。じゃがいもを入れると柔らかく扱いやすくなりますが、冷めると重く感じることがあります。今回は、鶏のゆで汁の香りを出すために薄力粉主体の生地にしています。
Catupiryがない場合、何を使えばよいですか?
クリームチーズが一番扱いやすいです。ただし、そのままだと濃く固まりやすいので、鶏のゆで汁を少量入れた具に混ぜます。レケイジョンに近づけたいなら、クリームチーズに牛乳を小さじ1〜2加えてなめらかにしてください。
パン粉は日本の普通のパン粉で大丈夫ですか?
使えます。ただし粗いパン粉だと、表面が日本のコロッケ寄りになります。ブラジルの軽食店風のなめらかな衣にしたい場合は、乾燥パン粉を袋に入れて麺棒で軽く砕くか、フードプロセッサーで短く回して細かくしてください。
揚げずにオーブンやエアフライヤーで作れますか?
作れますが、揚げたコシーニャとは食感が変わります。エアフライヤーなら表面に油を薄く塗り、200度Cで10〜12分を目安に加熱します。途中で一度向きを変え、表面が乾いて黄金色になったら取り出します。生地と具はすでに火が通っているので、衣を色づける工程として考えてください。
子ども向けに辛味を抜いてもよいですか?
大丈夫です。具の唐辛子は入れず、パプリカパウダーだけで色をつけます。大人は食べる時にペッパーソースを添えればよいので、家族用には辛味を外で調整する方が失敗しません。
鶏むね肉がぱさつきませんか?
ゆですぎるとぱさつきます。弱火で15〜18分を目安にし、中心まで火が通ったらすぐ取り出します。裂いた後に具として炒める時も、ゆで汁大さじ3とクリームチーズでまとめるため、単体で食べる鶏むね肉よりしっとり仕上がります。
まとめ — コシーニャは鶏のゆで汁まで使う軽食
コシーニャは、材料名だけ見ると鶏肉の揚げコロッケです。けれど実際には、鶏をゆでた汁を生地へ戻し、具にも少し含ませ、最後にしずく形へ閉じ込める料理です。だから、ゆで汁を薄くしないこと、具を水っぽくしないこと、生地を鍋底から離れるまで練ることが味と形を決めます。
初回は12個分で作り、成形の感覚を覚えるのがおすすめです。慣れたら倍量にして、半分は揚げたて、半分は冷凍へ回す。こうしておくと、次にブラジル料理の日を作る時、フェイジョアーダやシュラスコの前に、すぐ一皿出せます。台所で少し手間はかかりますが、揚げたての先端を割った瞬間、その手間はちゃんと報われます。
参考文献
- Panelinha, "Coxinha de frango" https://panelinha.com.br/receita/coxinha-de-frango (参照 2026-05-15)
- I Heart Brazil, "Coxinha Brazilian Chicken Croquettes Recipe" https://www.iheartbrazil.com/coxinha-recipe/ (参照 2026-05-15)
- Wikipedia contributors, "Coxinha" https://en.wikipedia.org/wiki/Coxinha (参照 2026-05-15)
- USDA FSIS, "Safe Minimum Internal Temperature Chart" https://www.fsis.usda.gov/food-safety/safe-food-handling-and-preparation/food-safety-basics/safe-temperature-chart (参照 2026-05-15)














