台所の皿に、ベネズエラの旗を並べる
炊きたての白いご飯を皿の片側に置き、反対側に黒豆をゆっくり流す。トマトとピーマンで赤く艶を出した牛肉のほぐし煮をのせ、最後に甘い揚げプランテンを添える。パーツはどれも見慣れた家庭料理に近いのに、一皿に集まった瞬間、急に南米の食卓になります。これがベネズエラの国民食、パベリョン・クリオージョ(pabellón criollo)です。

パベリョンはスペイン語で「旗」や「大きな標識」を意味します。白米、黒豆、褐色の牛肉、黄色いタハーダ(熟したプランテンの揚げ焼き)が皿の上でくっきり分かれるため、ベネズエラの料理名としてはかなり視覚的です。英語圏の料理サイトでは、米と豆のカリブ海的な組み合わせに、牛肉のカルネ・メチャーダ(carne mechada)と甘いプランテンを合わせた一皿として紹介されます。
日本で作るときの難所は、材料名よりも段取りです。牛肉は柔らかく煮てから裂く。黒豆は乾燥豆なら前日から、缶詰なら味を入れ直す。プランテンはバナナで完全代用できない。ここをぼかすと「牛丼と豆ご飯とバナナ」になってしまいます。本記事では、牛すね・肩ロース・ランプ、黒豆缶、冷凍プランテン、完熟バナナの限界まで、日本の台所で判断できる形に落とし込みます。
アレパやカチャパを先に作った人なら、同じベネズエラ料理でも役割が違うことに気づくはずです。アレパは毎日の主食、カチャパは甘いとうもろこしの軽食。パベリョン・クリオージョは、米・豆・肉・甘い副菜を一度に受け止める「食卓の中心」です。
スペイン語の表記は pabellon criollo、アクセント付きでは pabellón criollo と書かれます。日本語では「パベリョン・クリオージョ」「パベジョン・クリオージョ」の表記が混在します。本記事では読みやすさを優先し、パベリョン・クリオージョで統一します。
この料理の背景 — 米、豆、牛肉、プランテンが一皿になった理由

パベリョン・クリオージョは、単に「ベネズエラのワンプレートごはん」と片づけるには惜しい料理です。196 flavorsは、白米、牛肉、黒豆、プランテンの組み合わせを、カリブ海から中米に広がる米と豆の文化のベネズエラ版として整理しています。黒豆はラテンアメリカの土着的な豆文化、牛肉は植民地期以降の牧畜、米とプランテンは大西洋世界の移動によって食卓に根づいた材料です。
現地では、牛肉のほぐし煮をカルネ・メチャーダ(carne mechada)、黒豆をカラオタス・ネグラス(caraotas negras)、熟したプランテンの揚げ焼きをタハーダス(tajadas)と呼びます。名前を知っておくと、海外レシピを読むときに迷いません。パベリョンは「一品料理」ではありますが、実際には三つから四つの料理を皿の上で合わせる構成です。
面白いのは、タハーダスを横に置いたものをpabellon con barandasと呼ぶことです。barandasは手すりや柵の意味で、長いプランテンを皿の端に置くと、料理がこぼれないように守っているように見えるからです。目玉焼きをのせるpabellon a caballo、海沿いのマルガリータ島で魚介に置き換えるpabellon margaritenoなど、地域や家庭で少しずつ表情が変わります。
日本の家庭で再現するときは、この「分かれているのに一皿で完成する」構造を守ると本場に寄ります。牛肉を黒豆に混ぜ込まず、白米をソースでべったり染めず、プランテンの甘さを別の場所に置く。食べる人がスプーンの上で米、豆、肉、甘いプランテンを少しずつ組み合わせられることが、パベリョンらしさです。
失敗しやすいところ — 牛肉が硬い、豆が甘い、バナナが崩れる

裂こうとして繊維が抵抗するなら、まだ煮込みが足りません。薄く切ってごまかすより、煮汁を足してさらに20〜30分煮てください。カルネ・メチャーダは、肉の繊維が自然にほどける柔らかさが命です。
日本の黒豆煮の感覚で砂糖を入れると、皿全体が和風に寄ります。地域によって黒豆に甘みを足すことはありますが、初回は玉ねぎとにんにく、塩、少量のクミンで香りを作り、甘みはプランテンに任せるとバランスが取りやすいです。
完熟バナナは水分が多く、プランテンほどでんぷん質がありません。代用するなら、まだ形が保てる程度の熟し方を選び、厚めに切って片栗粉を薄くまぶします。長く焼くと溶けるので、強めの中火で短時間だけ焼き色をつけます。
パベリョンは、カレーライスのように全体を一体化させる料理ではありません。米は米、豆は豆、肉は肉で味を立て、スプーンの上で少しずつ合わせます。盛り付けの分離は見た目だけでなく、食べ方の設計です。
食べ方と献立 — アレパに詰める、目玉焼きをのせる、翌日に回す

基本の皿に目玉焼きをのせると、pabellon a caballoになります。a caballoは「馬に乗った」の意味で、ラテンアメリカでは目玉焼きを上にのせた料理に使われる表現です。黄身が牛肉と米に絡むので、夕食よりも休日の昼に向いています。
アレパに詰める食べ方もおすすめです。焼いたアレパを横から割り、牛肉、黒豆、プランテンを少しずつ入れると、arepa de pabellonに近い食べ方になります。米は省いてもよく、白チーズを足すと塩気が締まります。冷蔵庫に残ったパベリョンのパーツを翌日の昼食に回すなら、この方法がいちばん楽です。
カチャパと並べる場合は、カチャパ側を小さめに焼いてください。パベリョンは米と豆があるので、とうもろこし生地まで大きいとかなり重くなります。甘いとうもろこしとプランテンの甘さが重なるため、サラダ、トマト、アボカド、ライムを添えると食べやすくなります。
南米料理の献立として広げるなら、前菜にセビーチェ、肉料理の比較にキューバのロパ・ビエハ、豆料理の比較にブラジルのフェイジョアーダを読むと、同じ「肉・豆・米」でも地域ごとに味の作り方が違うことが見えてきます。
保存と作り置き — 一皿ではなく、パーツごとに保存する

パベリョン・クリオージョは、作り置きに向いています。ただし、一皿に盛った状態で保存すると米が豆の汁を吸い、プランテンが水分で柔らかくなります。保存するなら、必ずパーツごとに分けてください。
牛肉のほぐし煮は、冷蔵で3日、冷凍で2〜3週間を目安にします。冷凍する場合は、煮汁を少し多めに残して小分けにしてください。解凍後にフライパンで温め、必要なら煮汁または水を大さじ2〜3足すと、ぱさつきが戻ります。
黒豆は冷蔵で3日、冷凍で2週間が目安です。缶詰を使った場合でも、玉ねぎやにんにくを加えて再加熱しているため、清潔な容器で早めに冷やします。豆は冷めると塩味を感じにくくなるので、温め直してから味を見てください。
白米は通常のご飯と同じ扱いです。冷凍するなら炊きたてを小分けにします。プランテンは当日中が理想で、冷蔵すると香ばしさが落ちます。残った場合は、翌日にフライパンで焼き直し、アレパや目玉焼きの横に添える程度にすると無駄になりません。
このH2は最初の草稿では薄くなりやすいところです。実際に食卓で困るのは、作った後の扱いだからです。パベリョンは時間のかかる料理なので、牛肉と黒豆を多めに作って翌日のアレパへ回す設計にすると、買い出しの価値が上がります。
よくある質問
牛肉は薄切りでも作れますか?
作れますが、パベリョン・クリオージョらしさは弱くなります。カルネ・メチャーダは、塊肉を煮て繊維に沿って裂くことで、ソースを含む細い肉になります。薄切り肉を使う場合は、炒め煮として割り切り、タイトル通りの本格再現とは別物と考えてください。
プランテンが買えません。バナナで代用できますか?
最終手段として代用できます。ただし、完熟バナナは甘く柔らかく、揚げると崩れやすいです。少し硬さが残るバナナを厚めに切り、片栗粉を薄くまぶして短時間で焼きつけてください。可能なら冷凍プランテンを通販で用意するほうが本場に近づきます。
黒豆は日本の甘い黒豆煮で代用できますか?
おすすめしません。甘い黒豆煮を使うと、プランテンの甘さと重なって和風の正月料理に寄ります。ブラックビーンズ缶、乾燥黒豆、または砂糖の入っていない水煮を使い、玉ねぎ、にんにく、塩で食事向けに整えてください。
目玉焼きやチーズは本場でも使いますか?
使われます。目玉焼きをのせたものはpabellon a caballoと呼ばれることがあります。白チーズやアボカドを添える家庭もあります。ただし、基本の四要素は牛肉、黒豆、白米、プランテンです。初回はこの四つをきちんと作ると、味の軸が分かります。
アレパやカチャパと一緒に出してもよいですか?
合います。ただし、パベリョン自体が米と豆を含む重い一皿です。アレパに詰めるなら米を省き、カチャパと合わせるなら小さめに焼くと食べやすいです。ベネズエラ料理の食卓として見せたい日は、アレパ、カチャパ、パベリョンを少量ずつ並べると楽しいです。
子ども向けに辛さを抑えられますか?
このレシピはもともと辛くありません。クミンやにんにくの香りはありますが、唐辛子で辛くする料理ではないため、子どもや辛いものが苦手な人にも出しやすいです。香りが強い場合は、クミンを小さじ1/2に減らしてください。
まとめ — 一皿でベネズエラ料理の骨格が見える

パベリョン・クリオージョは、手早い料理ではありません。牛肉を煮て、豆に香りを足し、米を炊き、プランテンを最後に焼く。けれど、作業の一つひとつは家庭料理の範囲です。難しいソースより、各パーツをきちんと分けて作ることが味を決めます。
初回は、牛すね肉、ブラックビーンズ缶、冷凍プランテンで十分です。牛肉を柔らかく裂けるまで煮る。黒豆を甘くしない。プランテンを最後に焼く。この三つを守るだけで、日本の台所でもベネズエラの国民食にかなり近づけます。
同じベネズエラ料理を続けるなら、主食のアレパの作り方、甘いとうもろこし料理のカチャパの作り方へ進んでください。地域を広げるなら、南米料理まとめからロパ・ビエハ、フェイジョアーダ、ロモ・サルタードへつなぐと、米と豆と肉が国ごとにどう変わるか見えてきます。
参考文献
- Whats4eats, "Pabellon Criollo (Venezuelan shredded beef with beans, rice and plantains)" https://www.whats4eats.com/meats/pabellon-criollo-recipe (参照 2026-05-07)
- 196 flavors, "Pabellon Criollo" https://www.196flavors.com/pabellon-criollo/ (参照 2026-05-07)
- Goya Foods, "Venezuelan Shredded Beef (Pabellon Criollo)" https://www.goya.com/en/recipes/Venezuelan-Shredded-Beef/ (参照 2026-05-07)
- Wikimedia Commons, Category "Pabellon criollo" https://commons.wikimedia.org/wiki/Category:Pabell%C3%B3n_criollo (参照 2026-05-07)
- Wikimedia Commons, "Pabellon Criollo.jpg" by Clara Flores, CC BY-SA https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Pabellon_Criollo.jpg
- Wikimedia Commons, "Pabellon criollo.jpg" by Odalisos, CC BY-SA 3.0 https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Pabellon_criollo.jpg
- Wikimedia Commons, "Pabellon Criollo Margariteno.jpg" https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Pabell%C3%B3n_Criollo_Margarite%C3%B1o.jpg
- Wikimedia Commons, "Plato Tipico Nacional PABELLON CRIOLLO.JPG" and other files in Category:Pabellon criollo; individual licenses are listed on each file page.














