ブリックの物語
油の中で、紙のように薄い三角形の皮がふくらむ。縁がきつね色になったところで網へ上げ、角を少し割ると、白身の奥から黄身がゆっくり流れます。皮は指で触れればぱりぱり、具のじゃがいもはほくほく。最後にレモンを搾ると、辛味と油の輪郭が一度軽くなります。
ブリック(Brik、بريك)は、チュニジアで親しまれている揚げパイです。特に卵を包んだブリックは、薄い皮、卵、ツナ、じゃがいも、ケーパー、パセリを一つにまとめる定番の組み合わせ。チュニジアの食卓では、ラマダンの断食明けの食事や昼食にも登場します。ハリッサを塗ったブリックを屋台や家庭で食べる場面は、辛味を添えるだけでなく、薄い皮の香ばしさを引き立てる食べ方として紹介されています。
現地で使う皮は、マルスーカと呼ばれる丸い薄皮です。小麦粉の生地を部分的に焼いたもので、揚げる前から完全に生ではありません。厚さはおよそ1mm。日本で見つからないときは冷凍春巻きの皮で代用でき、フィロを2枚重ねても作れます。ただし、春巻きの皮は折り目が扱いやすく、フィロはより軽く砕けやすい。皮を替えると、同じ具でも音と口当たりが変わります。
名前の由来は一つに決められていません。北アフリカや中東には、ブリック、ブレク、ボレク、ワルカなど、薄い皮と具を組み合わせる料理があります。チュニジアのブリックも、トルコのボレクと関係があるのではないかと考えられていますが、起源ははっきりしません。だからこそ、皮の形や具の組み合わせには地域と家庭の差が残っています。
日本で最初に作るなら、本場のマルスーカを探して台所を止めるより、冷凍春巻きの皮で火入れを覚えるのが現実的です。判断の軸は、卵を半熟で残すか、中心まで固めるかです。 前者なら揚げ時間を短くして皮の色を見ます。後者なら白身だけを先に固め、火を少し長く入れてください。どちらを選んでも、揚げたてをレモンと食べるところまでがブリックの楽しさです。

マルスーカは、ブリック用の丸い薄皮です。日本では冷凍春巻きの皮4枚で置き換えられます。フィロを使う場合は2枚重ね、乾かないよう使う直前まで包みを閉じておきます。
揚げる前に決めておくこと

ブリックは、具を作るところより、皮を開いてから揚げ終えるまでの数分で状態が変わります。次の4点を先に台所へ置いておくと、卵を割ってから迷いません。
- 具は4等分し、卵を割る器とフライ返しを鍋の近くに置きます。
- 皮を開く順番と、揚げたブリックを置く網を決めます。
- 半熟にするか、黄身まで固めるかを1枚目の前に決めます。
- ハリッサとレモンは、揚げたあとすぐ届く位置に置きます。
皮がぱりぱりなのに具が水っぽいときは、じゃがいもの蒸気が抜けていません。具を冷ます工程を急がないことが、破れと油はねの両方を減らします。反対に、皮が硬く割れて卵が流れたときは、袋から出したまま置いた時間が長すぎます。乾いた皮は元へ戻せないので、残りを覆い、次の1枚へ進んでください。
油の泡が細かくなった後に色だけが濃くなる場合は、火が強すぎます。温度を下げて皮を焼き固める時間を確保します。油が静かで色もつかない場合は低温です。次の1枚を入れる前に170℃前後へ戻してください。
最初の1枚は、黄身を半熟にする場合でも少し長めに揚げ、皮の色と白身の固まり方を確認します。2枚目から、同じ油温で揚げ時間を短くするか、固める方向へ伸ばすかを決めると、4枚の仕上がりがそろいます。
具を変えるときの境界線

定番はツナ、じゃがいも、卵、ケーパーです。ここから具を変えるときも、皮を湿らせないことと、卵を置くくぼみを残すことは変えません。
辛味を控える
ハリッサを半量にし、食卓へ小皿で添えます。辛味を抜いても、ケーパーの酸味、パセリの青い香り、レモンの輪郭が残るので、具の水分を増やさずに香りを残します。辛味を完全に省く場合は、コリアンダーを少し増やして香りを補います。
さつまいもとハーブに替える
じゃがいもを同量のさつまいもに替え、ツナを抜いてパセリと少量の長ねぎを加えます。甘みが出るので、ケーパーを減らさず、レモンを多めにします。これはチュニジアで広く定まった一つの型ではなく、日本で作りやすい野菜版として考えてください。
鶏肉とチーズに替える
ツナを細かく裂いた加熱済みの鶏肉へ替え、チーズを少量加えます。具は必ず冷ましてから皮へ置きます。チーズが多いと油の中で流れ、皮の継ぎ目から漏れます。最初の1枚はチーズなしで、折り目の閉じ方を確認するほうが安全です。
チュニジアの食卓での立ち位置

ブリックは、チュニジア料理の中で「薄い皮に具を包む料理」というだけではありません。ラマダンの断食明けに食べる料理として紹介される一方、昼食や軽食としても登場します。卵を包んで揚げるため、割った瞬間に黄身が流れる状態を楽しむ人もいれば、家族に合わせてしっかり火を入れる人もいる。皮の焦げ色だけでなく、卵の状態が食卓ごとの判断になります。
皮の名前にも土地の重なりがあります。チュニジアではマルスーカ、ブリックと呼ばれ、別の地域ではワルカやボレクなど別の名前が使われます。SBS Foodは、薄い皮を使う料理の呼び名と用途が地域で変わること、ブリックの起源を一つの地点に決めにくいことを紹介しています。日本で春巻きの皮を使うときも、単なる代用品として隠すより、同じ具を別の薄皮へ移していると考えると、皮の違いを味わいやすくなります。
具にも役割があります。ツナは塩味とうま味、じゃがいもは卵黄を受ける土台、ケーパーは油を切る酸味、パセリは香りの抜け道です。ハリッサは辛さを足すだけでなく、唐辛子、にんにく、香辛料、酸味を一度に持ち込みます。AP通信が報じたナブールのハリッサの食文化でも、ハリッサは家庭や店の料理に使われ、ブリックに塗る食べ方が紹介されています。
日本の台所では、材料を全部そろえるより、残す要素を先に決めると代替で迷いません。マルスーカがなければ春巻きの皮を使う。ハリッサがなければ、辛味ベースにクミンと酸味を重ねる。半熟を避けるなら、皮の色を少し濃くして卵を固める。ここまで決めておけば、ブリックは珍しい食材を並べる料理ではなく、皮、卵、辛味、酸味の順に組み立てる料理になります。
チュニジアの卵料理をもう一つ作るなら、トマトと卵を煮るチャクチョウカへ進むと、揚げ物とは違う辛味の使い方が見えます。豆と野菜を煮込むムソキを添えれば、ブリックのぱりぱり感を受け止める大きな皿になります。軽食を並べる日は、具を詰めた揚げパンのフリカッセも同じ食卓へ置けます。
保存と温め直し

いちばん軽い食感を保てるのは、揚げてすぐに食べる方法です。作り置きするなら、具と皮を分け、卵を包む作業を食べる直前に行います。
| 保存するもの | 保存方法 | 目安 |
|---|---|---|
| 混ぜた具 | 粗熱を取って密閉し、冷蔵 | 翌日まで |
| 未使用の皮 | 袋を閉じ、商品の表示どおりに冷蔵または冷凍 | 商品表示を優先 |
| 揚げたブリック | 網で冷ましてから密閉し、冷蔵 | できれば当日中 |
| 詰める前の揚げ皮 | 乾燥を防いで冷蔵 | 翌日まで |
詰めた状態で冷蔵すると、じゃがいもと卵の水分が皮へ移り、ぱりぱり感が失われます。温め直すなら、冷蔵から出したブリックをトースターの網に置き、180℃で5〜7分を目安にします。中心まで十分に熱くなったことを確認し、半熟の状態へ戻そうとして加熱を短くしないでください。
具を前日に作る場合は、ゆでたじゃがいもとツナを混ぜて冷まし、ケーパー、パセリ、ハリッサまで加えて密閉します。卵は皮へ包む直前に用意します。室温へ長く置いた具は再利用せず、冷蔵できない持ち運びでは作り置きを避けてください。
よくある質問

マルスーカと春巻きの皮は同じですか?
同じではありません。マルスーカはブリック用の丸い薄皮で、春巻きの皮は四角く、折った部分が少し厚くなります。家庭で作る初回は春巻きの皮のほうが扱いやすく、現地の食感を優先するときはマルスーカを探します。フィロは2枚重ね、乾かさないことが条件です。
卵黄を半熟にしても大丈夫ですか?
半熟は伝統的な食感の一つですが、安全性を優先する場合は白身と黄身が固まるまで加熱してください。FoodSafety.govは、生卵は黄身と白身が固まるまで、卵料理は71℃まで加熱する目安を示しています。小さな子ども、高齢者、妊娠中の人、免疫機能が弱い人に出す場合は、半熟を避ける判断が適切です。
揚げている途中で卵が流れます
皮の縁が閉じていないか、具を盛りすぎている可能性があります。卵を小さな器へ割ってからくぼみへ流し、縁を2cm以上残してください。折ったら積まずにすぐ揚げます。少し流れた場合は、フライ返しで皮を押さえつけず、皮の角を油の中へそっと戻します。
揚げずに作れますか?
作れますが、油で揚げたブリックとは別の仕上がりです。春巻きの皮の表面に薄く油を塗り、220℃のオーブンで10〜12分焼くと、皮はぱりっとします。卵は揚げるより固まりやすいので、半熟を狙わず、白身と黄身の状態を見て引き上げてください。
ケーパーが苦手な場合は?
量を半分にしても、油と卵を締める酸味は残せます。完全に省くなら、レモンを食卓で少し多めに搾ります。きゅうりのピクルスを細かく刻む代替もありますが、水分をしっかり拭いて具へ混ぜてください。
ハリッサはどれくらい入れますか?
最初は1個あたり小さじ1/2から始め、食卓で追加する方法が安全です。辛味が強い商品は同じ20gでも印象が変わるため、瓶の表示と味を確認しながら増やします。ハリッサがない場合は、材料表のサンバルオレックの代替ペーストを使います。
今日の一枚を半熟にするか

ブリックを初めて作るなら、皮は冷凍春巻きの皮で十分です。具の水分を飛ばし、卵を割る器を用意し、1枚ずつ揚げる。この3つを守ると、珍しい皮を探す前に、料理の骨格をつかめます。
半熟の黄身を選ぶなら、最初の1枚を少し長めに揚げて皮と白身を確認します。卵を固めるなら、油温を下げて合計時間を伸ばします。ハリッサがなければ、サンバルオレックとクミンを代替として買うか、辛味を省いてレモンを増やすかを決めてください。
マルスーカを見つけた日にもう一度作れば、春巻きの皮との違いが分かります。最初の一皿は、皮の音、卵の状態、ハリッサの辛味のどこを残したいかを決めるための一皿です。












