リマの夜に立つ赤い煙

夜の屋台から、酢と唐辛子と炭火が混ざった甘い煙が立つ。ペルーのアンティクーチョは、そういう匂いの料理です。串焼きなので見た目は親しみやすいのに、口に入れると日本の焼き鳥とは違う酸味と赤い唐辛子の香りが先に来ます。肉は脂で押すのではなく、マリネをまとった表面を短く焼き付け、じゃがいもやとうもろこしで受け止める食べ方です。
アンティクーチョ(anticuchos)は、ペルーでは牛ハツを使うことが多く、スペイン語で anticuchos de corazón とも呼ばれます。corazón は心臓のこと。日本のスーパーでは牛ハツが常時並ぶとは限りませんが、精肉店、焼肉用の部位を扱う店、通販で手に入ることがあります。牛ハツが難しい日は、牛ハラミ、牛もも、豚肩ロースで作っても、赤いアヒパンカ風マリネと串焼きの形を守れば家庭版として十分おいしく着地します。
この記事では、牛ハツの下処理、アヒパンカがない日の代替、魚焼きグリルやグリルパンでの焼き方、中心温度の見方まで、日本の台所で迷いやすいところに寄せて説明します。同じペルー料理の食卓にするなら、冷たい前菜のカウサ・リメーニャ、黄色いソースのパパ・ア・ラ・ワンカイーナ、強火炒めのロモサルタードと並べると、リマの食堂らしい流れになります。
スペイン語表記は anticucho、複数形は anticuchos です。牛ハツを使うものは anticuchos de corazón と書かれます。日本語では「アンティクーチョ」「アンティクーチョス」と表記が分かれますが、この記事では料理名としてアンティクーチョに統一します。
火加減と失敗原因 — 牛ハツは焼きすぎても焼き足りなくても難しい

アンティクーチョは「焼肉のたれ味の串」ではありません。酢と唐辛子で香りを入れ、強めの火で短く焼き、じゃがいもで受ける料理です。失敗するときは、マリネを濃くしすぎる、肉を大きく切りすぎる、弱火で長く焼く、この三つに集まりやすいです。
| 失敗 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 肉が硬い | 膜や筋が残った、中心温度を上げすぎた、弱火で長く焼いた | 下処理で白い膜を取る。2.5cm角にそろえ、中火より少し強めで短く焼く |
| 表面が苦い | マリネが厚すぎる、砂糖入りペーストを強火で焼きすぎた | 焼く前に余分なマリネを落とし、仕上げの上火は3〜4分で止める |
| 水っぽい | 肉を洗った後に拭いていない、フライパンが冷たい | 水気を完全に拭き、グリルパンを3分予熱してから並べる |
| 中心がぬるい | 肉が大きい、串に詰めすぎた | 2.5cm角に切り、すき間を残す。厚い一切れで温度を測る |
| ペルーらしい香りが弱い | クミンと酢が少ない、アヒパンカ代替が甘いだけ | クミン小さじ1、酢大さじ3は守る。パプリカだけでなく酸味を入れる |
| 竹串が焦げる | 水に浸していない、上火に近すぎる | 30分水に浸す。焦げる部分はアルミホイルで軽く覆う |
牛ハツが手に入らないとき、牛ハラミはかなり相性がよいです。脂が少しあり、強火で短く焼いても香ばしさが出ます。牛ももは安い反面、焼きすぎると硬くなりやすいので、2cm厚に寄せて短く焼きます。豚肩ロースを使う場合は中心までしっかり火を通し、厚い一切れで75度Cを目安にします。
アヒパンカがない日の代替は、完全再現ではなく「方向を外さない」ためのものです。パプリカパウダーだけでは甘い香りに寄り、トマトペーストだけではナポリタン寄りになります。アヒアマリージョ代用ソースを少し入れるとペルー料理の黄色い香りが足されますが、入れすぎると料理の色が明るくなりすぎます。赤い深みはパプリカ、軽い辛味はアヒアマリージョ、酸味は酢、と役割を分けると失敗しにくくなります。
同じ串焼きでも、ブラジルのシュラスコは肉の塊と塩の料理、ナイジェリアのスヤはピーナッツと唐辛子粉の香りが主役です。アンティクーチョはその中間ではなく、酢を含む赤いマリネを焼き切る料理。弱火でじっくりではなく、短時間で表面を乾かす意識が合います。
保存と翌日の食べ方

焼いたアンティクーチョは、粗熱が取れたら串から外し、浅い保存容器に入れて冷蔵します。保存目安は2日です。常温に長く置いたもの、肉汁が多く出たもの、屋外へ持ち出したものは翌日に回さないでください。生肉に触れたマリネ液は保存せず、必要なら肉を入れる前に取り分けた分だけを加熱してソースにします。
温め直しは電子レンジだけだと香りが弱くなります。冷蔵庫から出した肉を耐熱皿にのせ、水小さじ1をふってラップを軽くかけ、600Wで40〜60秒温めます。その後、フライパンを弱めの中火にして1〜2分だけ転がすと、表面の香りが戻ります。強火で焼き直すと中心まで再加熱される前に表面が苦くなるので、翌日は「温めてから香りを戻す」順番にします。
余った肉は、じゃがいもと一緒に刻んで温かいサラダにするのも向きます。ライム、香菜、薄切り玉ねぎを足すと、翌日でも重くなりません。ご飯にのせる場合は、肉を小さく切り、赤いソースを少量だけ足します。日本の焼肉丼のように甘辛く寄せるより、酸味を残す方がアンティクーチョらしさが残ります。
持ち寄りにするなら、焼きたてをそのまま密閉せず、粗熱を取ってから保冷剤と一緒に運びます。現地の屋台のように熱いまま食べる楽しさはありますが、家庭で作って移動する場合は安全を優先します。会場で温め直せるなら串から外して持参し、温めてから短い竹串に刺し直す方が、中心まで均一に温まりやすくなります。
よくある質問

Q. 牛ハツがないときの代替は何が近いですか?
一番近いのは牛ハラミです。短時間で焼いても香ばしく、脂が少しあるので硬くなりにくいです。牛ももは手に入りやすいですが、焼きすぎると硬くなるため小さめに切ります。豚肩ロースでも作れますが、その場合はペルーの牛ハツ串というより家庭版の赤いマリネ串として扱い、中心まで十分火を通します。
Q. アヒパンカペーストがないと作れませんか?
作れます。ただし、ただのパプリカ味にしない工夫が必要です。パプリカパウダー大さじ2、トマトペースト小さじ2、アヒアマリージョ代用ソース小さじ2、酢大さじ3を合わせると、赤い色、少しの甘み、酸味、唐辛子の香りが分担できます。辛さは最後にカイエンペッパー少量で足す方が調整しやすいです。
Q. 魚焼きグリルだけで焼けますか?
焼けます。両面焼きなら強火で予熱2分、串を並べて5〜6分、裏返しが必要な片面焼きなら片面4分、裏返して3〜4分が目安です。庫内が狭い場合は串を短くするか、串に刺さず網に肉だけ並べてください。脂とマリネが落ちるので、受け皿の水やアルミホイルの使い方は機器の説明書に従います。
Q. 前日から漬けてもいいですか?
できますが、酢が強く入りすぎると肉の表面が締まります。前日から漬ける場合は、赤ワインビネガーを大さじ2に減らし、焼く1時間前に油小さじ2を足して全体を混ぜ直します。24時間を超えて漬けるより、2〜6時間で焼く方が牛ハツの歯切れはきれいです。
Q. 中心温度は何度を見ればいいですか?
米国の食品安全情報では、牛・豚・羊などのステーキやローストは63度C以上に達した後、3分休ませる目安が示されています。牛ハツは形も切り方も家庭ごとに変わるため、この記事では厚い一切れで少なくとも63度C、家族向けに安全側へ寄せる場合や豚肉で代替する場合は70〜75度Cを目安にしています。温度計がない場合は、厚い一切れを切り、中心がぬるくなく、赤い生っぽい汁が残らないことを確認します。
参考にした資料
- Peru Travel, "Anticucho"(参照 2026-05-16) https://www.peru.travel/gastronomy/en/recipes/entrees/anticucho.html
- LimaEasy, "Anticuchos"(参照 2026-05-16) https://www.limaeasy.com/peruvian-food-guide/typical-starter-appetizer/anticuchos
- USDA FSIS, "Safe Minimum Internal Temperature Chart"(参照 2026-05-16) https://www.fsis.usda.gov/food-safety/safe-food-handling-and-preparation/food-safety-basics/safe-temperature-chart
- FoodSafety.gov, "Safe Minimum Internal Temperatures"(参照 2026-05-16) https://www.foodsafety.gov/food-safety-charts/safe-minimum-internal-temperatures












