この料理の物語 — 黄色いソースが冷たいじゃがいもを主役にする
ゆでたじゃがいもにソースをかけるだけ、と聞くと、少し拍子抜けするかもしれません。けれどペルー料理のパパ・ア・ラ・ワンカイーナは、その「だけ」の部分に食欲を持っていかれます。冷たいじゃがいもに、アヒアマリージョの黄色い香り、白いチーズの塩気、クラッカーのとろみ、牛乳の丸さが重なり、皿の上で前菜にも軽い昼食にもなる一品です。
パパ・ア・ラ・ワンカイーナ(papa a la huancaína)は、直訳すると「ワンカヨ風のじゃがいも」です。ゆでたじゃがいもを厚めに切り、レタスの上に並べ、黄色いワンカイーナソースをたっぷりかけます。仕上げはゆで卵と黒オリーブ。見た目はやさしいのに、ソースをひと口なめると、唐辛子と乳製品が合わさったペルー料理らしい明るさがあります。

日本で作るときに迷うのは、やはりアヒアマリージョとチーズです。アヒアマリージョはペルー料理の黄色い唐辛子で、辛味だけでなく果実のような香りがあります。チーズは本来、ケソ・フレスコのような白く若いチーズを使いますが、日本のスーパーではカッテージチーズ、クリームチーズ、カマンベールの白い部分、塩気の少ないフェタなどを組み合わせる方が現実的です。
この記事では、瓶詰めのアヒアマリージョペーストがある場合と、近所で見つからない場合の両方を扱います。すでにアヒアマリージョ代用ソースを作っているなら、それを使えます。カウサ・リメーニャより成形が楽で、セビーチェより魚の鮮度に気を使わず、ロモサルタードより火入れが簡単。ペルー料理の入り口として、かなり頼れる皿です。
スペイン語では papa a la huancaína と書きます。huancaína はペルー中部の都市ワンカヨ(Huancayo)やワンカ地方に結びつく表現です。日本語では「パパ・ア・ラ・ワンカイーナ」「パパ・ア・ラ・ワンカイナ」と表記されますが、本記事ではワンカイーナで統一します。
この料理の背景 — ワンカヨ、鉄道、黄色いクリームソース
パパ・ア・ラ・ワンカイーナの由来には、はっきりひとつに決めきれない話がいくつか残っています。よく語られるのは、リマとワンカヨを結ぶ鉄道建設の労働者に、地元の女性たちがゆでたじゃがいもと辛いチーズソースを売ったという話です。もうひとつは、リマの食堂文化のなかでワンカ地方のチーズと唐辛子を使ったソースが広まり、都市の前菜として定着したという見方です。
どちらの説を採るにしても、料理の芯は分かりやすいです。アンデスのじゃがいも、アヒアマリージョ、白いフレッシュチーズ。この三つが合わさった、ペルーらしい冷製前菜です。ペルーの家庭やレストランでは、食事の最初に出る entrada として扱われることが多く、肉料理や米料理の前に置いても重くなりすぎません。

ペルー料理では、唐辛子が単なる辛味ではなく、料理の香りと色を作ります。アヒアマリージョはその代表格です。黄色という名前ですが、熟すと橙色に近く、辛さの奥に果実の香りがあります。ワンカイーナソースでは、これをチーズと牛乳で丸め、クラッカーやパンで濃度を作ります。
おもしろいのは、ソースだけが独立して広がっていることです。じゃがいもにかけるのが基本ですが、ペルーではパスタにからめた tallarines a la huancaína、肉料理のソース、野菜のディップとしても使われます。日本の台所でも、余ったソースをブロッコリー、ゆで鶏、焼いたとうもろこしにかけると、翌日の使い道に困りません。
ワンカイーナで守りたい核
| 要素 | ペルーの基本 | 日本での着地点 |
|---|---|---|
| じゃがいも | 黄色く粉質のじゃがいも | 男爵、キタアカリ、インカのめざめ |
| 黄色い辛味 | アヒアマリージョ | ペースト最優先。なければ黄パプリカ代用ソース |
| チーズ | ケソ・フレスコ | カッテージチーズ、クリームチーズ、白いチーズの組み合わせ |
| とろみ | ソーダクラッカーやパン | 塩味の弱いクラッカー、食パンの白い部分 |
| 盛り付け | レタス、卵、黒オリーブ | サニーレタス、かたゆで卵、種なしブラックオリーブ |
ここで大事なのは、ソースをマヨネーズ味に寄せないことです。ワンカイーナはクリーミーですが、マヨネーズではありません。油、乳製品、クラッカーでなめらかにしながら、アヒアマリージョの香りを残します。辛さを怖がって唐辛子を抜きすぎると、黄色いチーズディップになってしまいます。
ペルーにはオコパ(ocopa)という緑色のソースをかけるじゃがいも料理もあります。オコパはワカタイというハーブ、ピーナッツ、チーズを使うことが多く、香草の青い香りが主役です。ワンカイーナはアヒアマリージョの黄色い香りとチーズの丸さが主役、と覚えると混同しにくくなります。
日本の台所での買い出し — 代替できるもの、できないもの
ワンカイーナは材料が少ないぶん、代替の方向を間違えると味がすぐ変わります。じゃがいもは男爵やキタアカリで十分ですが、メークインだけで作ると、冷めたときに少し水っぽく感じます。ソースをかける料理なので、じゃがいもにはほくっとした粉質がほしいところです。

アヒアマリージョペーストが手に入るなら、それを使うのがいちばん近いです。小瓶で十分です。辛さは商品によって差があるので、最初から大さじ3入れず、大さじ1と1/2から始めてください。代用ソースを使う場合は、黄パプリカの甘みで少し丸くなるため、レモンやライムを最後に少し足すと輪郭が出ます。
チーズは悩みどころです。ケソ・フレスコは、熟成させない白いチーズで、塩気はあるけれどクセは強すぎません。日本で一種類だけで寄せるならカッテージチーズが近いですが、脂肪分が少なく、ソースが軽くなりがちです。カッテージチーズにクリームチーズを少し混ぜると、舌ざわりがなめらかになります。
| 材料 | 最適 | 代替 | 避けたいもの |
|---|---|---|---|
| じゃがいも | キタアカリ、男爵、インカのめざめ | 冷凍の皮むきじゃがいも | メークインだけ、新じゃがだけ |
| アヒアマリージョ | 瓶詰めペースト | 黄パプリカ代用ソース | タバスコだけ、一味だけ |
| 白いチーズ | ケソ・フレスコ | カッテージチーズ + クリームチーズ | ピザ用チーズ、青かびチーズ |
| 牛乳 | エバミルク、無糖練乳 | 牛乳 + 生クリーム少量 | 加糖練乳 |
| とろみ | 塩味の弱いクラッカー | 食パンの白い部分 | 甘いビスケット |
レシピによっては evaporated milk と書かれています。これは無糖練乳やエバミルクのことで、甘いコンデンスミルクではありません。加糖練乳を入れると、ソースがデザートのように甘くなります。日本で見つからない場合は、牛乳に生クリームを少し足す方が安全です。
買い出しで見る価値があるもの
アヒアマリージョとブレンダーは、ワンカイーナ以外にも使い回しがききます。通販で一度そろえるなら、黄色い唐辛子、白いチーズ、なめらかに回せる小型ブレンダーを優先すると失敗しにくいです。
濃度と辛さの調整 — 失敗はソースで直せる
パパ・ア・ラ・ワンカイーナの失敗は、ほとんどがソースの濃度です。じゃがいもはゆでて切るだけなので、大きく外しにくい。けれどソースが薄いと、皿の上で黄色い水たまりになります。逆に重すぎると、クラッカーの味が前に出て、じゃがいもにからみません。

目安は、スプーンの背にソースをつけて指で線を引いたとき、線がすぐ消えないことです。パスタソースよりやや重く、ディップより少しゆるいくらい。冷蔵庫に入れると少し締まるので、作りたてで完璧に固い必要はありません。
| 状態 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 水っぽい | 牛乳を入れすぎた、じゃがいもが温かすぎる | クラッカーを1〜2枚追加し、5分置く |
| 粉っぽい | クラッカーが多い、ブレンダー不足 | 牛乳大さじ1、油小さじ1を足して再度回す |
| 辛すぎる | ペーストを入れすぎた | チーズ30gと牛乳大さじ2を足す |
| 味がぼやける | 塩と酸味が足りない | 塩少々、ライム果汁小さじ1を足す |
| チーズ臭い | 熟成チーズを使った | アヒアマリージョとライムを少量足す |
辛さは、家族で食べるなら控えめから始めてください。ペルーのアヒアマリージョは中程度以上の辛さがありますが、ワンカイーナでは乳製品で丸くなります。瓶詰めペーストの辛さは商品差が大きいので、大さじ2を一気に入れるより、大さじ1と1/2で回し、色と香りを見て足す方が安全です。
高速で何分も回すと、ソースが温まり、乳製品の香りが重くなります。30秒回して止め、側面を落とし、また30秒。短く刻む方が、なめらかさと香りのバランスを取りやすいです。
食べ方とアレンジ — 前菜からパスタソースまで
現地の食べ方に近づけるなら、冷たい前菜として出します。皿の下にレタス、上にじゃがいも、ソース、卵、黒オリーブ。食卓では、酸味のある料理や焼いた肉の前に置くと流れがよくなります。ペルー料理のまとめで見ると、ワンカイーナはセビーチェやカウサと同じく、食事の最初を明るくする料理です。
平日の夕飯なら、焼いた鶏肉や魚に添えてください。じゃがいもがあるので、ごはんを少なめにしても満足感があります。休日にペルー料理の食卓を作るなら、セビーチェ、ワンカイーナ、ロモサルタードの順に出すと、冷たい酸味、クリーミーな前菜、熱い炒め物の対比がきれいです。
南米のじゃがいも料理として見ると、ワンカイーナはとても軽い立ち位置です。コロンビアのアヒアコはじゃがいもを煮崩してスープの厚みにしますし、ペルーのカウサ・リメーニャは黄色いじゃがいも生地を成形します。ワンカイーナは、じゃがいもを形のまま残し、ソースで料理にする発想です。同じ前菜でも、ベネズエラのレイナ・ペピアーダのように具を詰める料理とは違い、皿の上でソースが主役になります。
献立を重くしたくない日は、米料理を避けて、酸味のある皿と合わせると食べやすいです。たとえば、ワンカイーナを前菜にして、主菜にアドボのような酸味のある煮込みを置くと、乳製品の丸さが口直しになります。南米らしく寄せるなら、チリのパステル・デ・チョクロやブラジルのヴィナグレッチを絡めると、とうもろこし、じゃがいも、酸味の線がつながります。
家庭で使いやすいアレンジ
| アレンジ | 作り方 | 向く場面 |
|---|---|---|
| ワンカイーナパスタ | ゆでたスパゲッティにソースをからめる | 余ったソースの翌日昼食 |
| ゆで鶏のワンカイーナ | 鶏むねを裂いてソースをかける | たんぱく質を増やしたい日 |
| 温野菜ディップ | ブロッコリー、にんじん、とうもろこしに添える | 子どもも食べる副菜 |
| 辛さ控えめ版 | ペーストを半量にし、黄パプリカソースを足す | 家族向け、持ち寄り |
| 濃厚版 | クリームチーズを増やし、牛乳を減らす | ワインやパンに合わせる日 |
ワンカイーナパスタにする場合は、ソースをフライパンで煮立てないでください。ゆで上げた麺の余熱で温めるくらいがよいです。強く加熱するとチーズが分離し、ざらつきが出ます。少し温めたい場合は、火を止めたフライパンにソースとゆで汁を入れて、麺をからめます。
ペルー料理では、じゃがいも、とうもろこし、唐辛子がよく同じ食卓に並びます。日本なら、焼きとうもろこしや冷凍コーンを添えるだけでも雰囲気が出ます。甘いとうもろこしは、アヒアマリージョの辛さをやわらげてくれます。
保存と作り置き — 皿に盛る前で分けておく
ワンカイーナは、完成皿のまま長く置くより、じゃがいも、ソース、卵、オリーブを分けて保存する方がきれいです。レタスの上に盛ってから冷蔵庫に入れると、葉から水分が出てソースが薄まります。持ち寄りにする場合も、現地の前菜らしく直前にかける方が見た目が保てます。

ゆでたじゃがいもは、皮をむいて切った状態で密閉し、冷蔵で翌日までが目安です。乾燥しやすいので、表面にぴったりラップを当てます。ソースは清潔な容器に入れ、冷蔵で2日ほど。食べる前に固くなっていたら、牛乳を小さじ1ずつ足して混ぜます。
卵は殻つきで保存し、盛り付け前に切る方が乾きません。黒オリーブは汁気を切って別容器へ。レタスは洗って水気を拭き、キッチンペーパーと一緒に袋へ入れます。ここまで分けておけば、食べる直前に皿を作るだけです。
乳製品と卵を使う料理なので、夏場の常温放置は避けてください。持ち寄りでは保冷剤を使い、食べる直前までソースを冷やします。屋外の食卓に出す場合は、少量ずつ盛り、残りは冷蔵に戻します。
よくある質問

Q1. アヒアマリージョがない場合、何で代用できますか?
黄パプリカを焼き、唐辛子、少量のターメリック、ライムでまとめた代用ソースが使えます。辛さだけを一味やタバスコで足すと、色と果実香が足りません。アヒアマリージョ代用ソースを大さじ2と1/2ほど使い、最後にライムで輪郭を出してください。
Q2. チーズは何を買えばよいですか?
ケソ・フレスコがあれば最適ですが、日本では見つかりにくいです。最初はカッテージチーズ120gに、クリームチーズ40gを足すのが作りやすいです。カッテージだけだと軽く、クリームチーズだけだと重くなります。粉チーズやピザ用チーズは香りが強く、ワンカイーナらしさから離れます。
Q3. 温かいじゃがいもにかけてもよいですか?
食べられますが、料理としては冷たい前菜に近いです。じゃがいもが熱いとソースがゆるみ、乳製品の香りが重く出ます。じゃがいもを手で触れる程度まで冷まし、ソースも冷たい状態でかけると、味が締まります。
Q4. ソースが余ったら何に使えますか?
ゆで鶏、温野菜、焼きとうもろこし、パスタに使えます。パスタにする場合は、火を止めたフライパンで麺とからめ、必要ならゆで汁を少量足します。煮立てると分離しやすいので、温めすぎないのがコツです。
Q5. 前日に作っておけますか?
ソースとじゃがいもを別々にしておけば前日準備できます。完成皿の状態で一晩置くと、レタスの水分でソースが薄まり、卵の表面も乾きます。盛り付けは食べる30分前から直前がきれいです。
参考文献
- Peru Travel. "Papa a la Huancaína." https://www.peru.travel/gastronomy/en/recipes/entrees/papa-a-la-huancaina.html (参照 2026-05-12)
- Eat Peru. "Papa a la Huancaina." https://www.eatperu.com/papa-a-la-huancaina/ (参照 2026-05-12)
- Epicurious. "Potatoes with Cheese Sauce (Papas a la Huancaína)." https://www.epicurious.com/recipes/food/views/potatoes-with-cheese-sauce-em-papas-a-la-huancaina-em-352875 (参照 2026-05-12)











