茶筒のふたを開けるところから始まるサラダ
日本の台所でラペットゥを作ろうとすると、最初に迷うのは肉でも魚でもなく、茶葉です。煎茶の袋を開けた瞬間の青い香りを、普段なら急須へ入れます。けれどミャンマーでは、その茶葉を食べます。酸味、苦味、油、豆の香ばしさが一皿に集まり、箸ではなくスプーンでざくざく混ぜて食べるサラダになります。
ラペットゥ(lahpet thoke / လက်ဖက်သုပ်)は、発酵させた茶葉を使うミャンマーの茶葉サラダです。lahpet は茶葉、thoke は和え物やサラダを指します。現地では食後やお茶の時間、人が集まる席で出されることが多く、単なる副菜というより「会話を続けるための皿」に近い存在です。
日本で難しいのは、現地の発酵茶葉そのものを安定して買えないことです。この記事では、発酵茶葉がある場合と、煎茶や番茶で近づける場合を分けます。完全に同じ味にはなりませんが、守るべき芯ははっきりしています。茶葉のほろ苦さ、にんにく油の香り、豆とごまの歯ざわり、最後に柑橘で締めること。この4つを外さなければ、日本のスーパーと通販でも「茶葉を食べるミャンマー料理」の輪郭は出せます。
モヒンガーが朝の湯気なら、ラペットゥは食後のざくざくした余韻です。麺料理のあとに重いデザートではなく、苦味と酸味のある茶葉サラダを少しつまむ。この組み合わせを知ると、ミャンマー料理の食卓がぐっと立体的になります。米ものを合わせる日は、魚醤と干しえびで冷やご飯を炒めるタミンジョーを置くと、茶葉の苦味と炒飯の香ばしさがつながります。
日本語ではラペットゥ、ラペットゥッ、ラペットトゥなど表記が揺れます。本記事では検索しやすい「ラペットゥ」を使い、英語圏でよく見る lahpet thoke を併記します。発酵茶葉そのものを lahpet と呼び、サラダとして和えた料理が lahpet thoke です。
この料理の背景 — お茶を飲むだけでなく食べる文化
ミャンマーの食文化で面白いのは、茶が飲み物の枠に収まらないことです。茶葉は発酵させ、油やにんにく、豆、種子と合わせて食べられます。東南アジアの食卓では魚醤、発酵大豆、干しえびのような発酵と乾物の旨みがよく使われますが、ラペットゥはそこに「茶葉の苦味」が入るため、ほかのサラダとは後味が違います。

現地のラペットゥには、発酵茶葉、揚げ豆、揚げにんにく、ごま、ピーナッツ、トマト、キャベツ、唐辛子、干しえびなどが入ります。家庭や店によって具の比率は違い、茶葉を前面に出す皿もあれば、豆と野菜を多めにして食べやすくする皿もあります。
日本で作る場合、発酵茶葉の酸味と旨みを完全に再現するのは難しいです。だから煎茶をそのまま混ぜるだけでは、苦味が立ちすぎます。熱すぎない湯で戻し、軽く洗い、油、にんにく、柑橘、砂糖で丸める。ここまでして初めて、茶葉が「飲み終えた茶殻」ではなく、料理の具になります。
日本で再現する分岐表
ラペットゥは、材料を本場品だけで揃えるほど難しくなります。発酵茶葉が買えない日は、代替の方向を間違えない方が大切です。
| 迷う材料 | 現地寄せ | 日本で現実的 | 判断 |
|---|---|---|---|
| 茶葉 | 発酵茶葉 lahpet | 煎茶、番茶、釜炒り茶 | 初回は煎茶20g。熱湯で戻さない |
| 油 | ピーナッツ油、にんにく油 | 太白ごま油、ごま油少量 | 香りが強すぎる油は大さじ1まで |
| 豆 | 揚げ豆、ピーナッツ | 無塩ローストピーナッツ、炒り大豆 | 歯ざわりが要なので抜かない |
| 魚介の旨み | 干しえび、魚醤 | 干しえび、ナンプラー | 菜食ならしょうゆとごまを増やす |
| 酸味 | ライム | レモン、すだち | 最後に必ず足す |
| 辛味 | 青唐辛子 | 青唐辛子、ピーマン、赤唐辛子少量 | 辛さより青い香りを残す |
番茶で作ると香ばしさは出ますが、色は暗くなります。煎茶は青い香りが出やすい一方、戻し湯が熱いと渋くなります。茶葉を食べる料理なので、飲むときより湯温を下げ、軽く洗う。このひと手間で食べやすさが変わります。
ラープやソムタムのように酸味と辛味で押すサラダと違い、ラペットゥは苦味を抱えています。だから酸味だけを増やしても解決しません。苦いと感じたら、柑橘だけでなく油、豆、ごまを少し増やして、口の中で丸くなる方向へ寄せます。
失敗しやすいところ — 苦い、水っぽい、豆が湿る
| 失敗 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 茶葉が苦すぎる | 熱湯で戻した、洗いが足りない | 80℃の湯で戻し、10秒洗ってから絞る |
| 全体が水っぽい | キャベツと茶葉の水気が多い | 和える前にペーパーで押さえる |
| 油が重い | ごま油を増やしすぎた | レモン汁小さじ1、キャベツ30gを足す |
| 豆が湿る | 早く和えすぎて置いた | 食べる直前に豆と揚げにんにくを入れる |
| えび臭い | 干しえびを戻し汁ごと入れた | 戻し汁は使わず、えびだけ短く温める |
| 味が平ら | 塩味だけで酸味が足りない | 仕上げに柑橘を小さじ1ずつ足す |
特に気をつけたいのは、作ってから食べるまでの時間です。ラペットゥは混ぜた瞬間がいちばん歯ざわりよく、置くほどキャベツから水が出ます。来客用に準備するなら、茶葉ペースト、切った野菜、温め直した豆類を別々に置き、食べる10分前に和えてください。
保存と作り置き — 混ぜる前で止める

茶葉ペーストだけなら、清潔な容器に入れて冷蔵2日を目安に保存できます。表面に油が薄くのるようにしておくと乾きにくくなります。発酵茶葉を使った場合は製品の塩分と保存状態に差があるため、開封後は早めに使い切ります。
野菜と豆を混ぜた完成後のラペットゥは、冷蔵で翌日までです。ただし豆と揚げにんにくは湿り、キャベツから水が出ます。翌日に食べるなら、追加のピーナッツ10gとごま小さじ1を足し、レモン汁小さじ1/2で締め直すと食感が戻ります。
作り置きの最適解は、完成品を保存することではなく、部品で保存することです。茶葉ペースト、切ったキャベツ、乾煎りした豆類を分け、食べる直前に合わせる。これなら平日の夕飯でも、モヒンガーの横に小皿で出せます。
食卓の組み方 — モヒンガーと並べるミャンマーの小皿
ミャンマー料理として組むなら、主役はモヒンガー、横にラペットゥ、小さな果物か甘い飲み物を添えるくらいで十分です。魚の出汁と米麺の温かさに、茶葉の苦味と豆の香ばしさが入ると、食後の重さが残りにくくなります。
東南アジアのサラダとして広げるなら、青パパイヤのソムタム、香草肉サラダのラープ、ベトナムのバインミーにもつながります。フィリピンのパンシット・カントンのような甘じょっぱい麺の横に少量置くと、茶葉の苦味が口直しになります。
出す量は、ひとり小鉢1杯ではなく、まず大皿からスプーン2杯ずつが扱いやすいです。ラペットゥは茶葉、豆、野菜の比率で味が変わるため、最初から取り分けるより、食べる人が自分の皿で豆を多めにしたり、茶葉を少なめにしたりできる方が楽です。辛味が苦手な人がいる日は、青唐辛子を本文の分量から外さず、皿の端にまとめて置くと、香りを残しながら辛さを避けられます。
飲み物は甘いミルクティーや冷たい緑茶が合います。茶葉を食べる料理にお茶を合わせるのは不思議に見えますが、油とにんにくが入るため、口の中では別の役割になります。主菜が油の多い焼き物なら、ラペットゥは小さく。モヒンガーのような汁麺なら、少し多め。食卓全体の油と酸味のバランスで量を決めると、最後まで飽きません。
FAQ
発酵茶葉がなくても作れますか?
作れます。煎茶20gを80℃の湯で戻し、水で軽く洗ってから油、にんにく、柑橘、ナンプラーで和えます。発酵由来の酸味と旨みは弱くなりますが、茶葉を食べる料理としての輪郭は出せます。
カフェインは残りますか?
残ります。茶葉そのものを食べるため、飲むお茶よりカフェインを意識した方が安全です。夜に食べる場合やカフェインに敏感な人は、量を小鉢半分ほどにするか、番茶を使ってください。
ピーナッツ抜きでも作れますか?
作れますが、歯ざわりの代替が必要です。炒り大豆40g、カシューナッツ40g、かぼちゃの種30gのどれかを使うと、茶葉の苦味を受け止める香ばしさが残ります。ナッツアレルギーがある場合は炒り大豆を選んでください。
干しえびやナンプラーを抜くと物足りませんか?
魚介の香りは弱くなりますが、菜食寄りにもできます。干しえびを抜き、ナンプラーをしょうゆ小さじ2に替え、白ごまを大さじ1増やします。旨みが足りないときは、刻んだ昆布茶小さじ1/4を茶葉ペーストに混ぜると味がまとまります。
作り置きできますか?
完成品としては翌日までです。おすすめは、茶葉ペーストだけ冷蔵2日で保存し、野菜と豆は食べる直前に混ぜる方法です。豆と揚げにんにくは湿りやすいので、最後に入れてください。











