カイヤーンの物語|炭の香りをまとったイサーンの焼き鶏
タイ料理を家で作ると、どうしても鍋やフライパンの料理から入りがちです。ガパオライスは炒めれば形になり、トムカーガイは香草を煮出せば台所にタイの匂いが立ちます。けれど、屋台の前を通ったときに足を止める匂いは、やはり焼き物です。
カイヤーン、またはガイヤーン(ไก่ย่าง / kai yang, gai yang)は、タイの炭火焼き鶏です。kai または gai は鶏、yang は焼くという意味。名前だけならとても素朴ですが、実際にはレモングラス、にんにく、パクチーの根、白こしょう、ナンプラーを潰した香味だれを鶏にしみ込ませ、弱すぎない中火でじっくり焼く料理です。

特にタイ東北部のイサーンでは、カイヤーンはソムタムともち米の横に置かれる定番です。辛くて酸っぱい青パパイヤのサラダを食べ、もち米を指で少しつまみ、焼き鶏をナムジムジェオに浸す。日本の焼き鳥のように串一本で完結するというより、酸味、辛味、香ばしさ、もち米の甘みを行き来する食卓の中心です。
英語圏のタイ料理レシピでは、カイヤーンを「street food」として説明するものが多く、丸鶏または半身を開いて焼く作り方がよく出てきます。Thai Cookbook TV は、背骨を切って開いた鶏を使うと、厚みが均一になって焼きやすいと案内しています。Temple of Thai のレシピでも、にんにく、こしょう、魚醤を使った甘辛い下味を焼き上げる構成です。
日本の台所で難しいのは、炭火そのものより火加減です。高温で短く焼くと皮だけ焦げ、中は火が浅い。弱火すぎると皮が乾き、屋台のような香ばしさが出ません。このレシピでは、炭火グリルがある場合と、オーブンだけで作る場合の両方を書きます。鶏肉は中心温度を確認し、香味だれは余らせず最後のたれに回す。そこまで決めておけば、家庭でもかなり近いところまで寄せられます。
タイ語の ไก่ は日本語では「ガイ」と書かれることが多い一方、無気音に近い響きを反映して「カイ」と書かれることもあります。この記事では検索されやすい「カイヤーン」を主表記にし、ガイヤーンも同じ料理として扱います。
焼き方のコツ|焦げる前に香ばしくする
カイヤーンで一番多い失敗は、たれの砂糖が先に焦げて、鶏肉の中心がまだ浅いことです。表面の色だけで判断すると、香ばしいのではなく苦い焼き色になります。焼き始めは皮を上にして香味だれを乾かし、後半で皮を下にして仕上げると失敗しにくいです。

炭火で作る場合は、炭を片側に寄せて強い場所と弱い場所を作ります。炎が上がったら焦げた部分を削るのではなく、鶏を弱い側へ逃がして30秒待つ。脂が落ち着いてから戻す方が、皮の香りを残せます。ガスコンロの魚焼きグリルを使う場合は、網に油を薄く塗り、最初は弱めの中火で10分、裏返して8分、最後だけ強火で2分です。
オーブンだけで作るなら、網をのせた天板を使って脂を落とします。天板に直接置くと、下側が蒸れて香ばしさが弱くなります。190度Cで25分、200度Cで10分、最後に皮側だけを上段で3分。焼き色が足りない場合でも、中心温度を確認する前に長く追い焼きしないでください。皮を焦がすより、切り分けてからフライパンで皮側だけ30秒焼き直す方が戻しやすいです。
| 失敗 | 原因 | 直し方 |
|---|---|---|
| 皮だけ黒い | 火が近い、砂糖だれを厚く塗った | 弱い側へ30秒逃がし、たれは水で薄めて薄く塗る |
| 中が生っぽい | 丸鶏の厚みがそろっていない | 背開きにして胸を押し、厚い部分に切り込みを入れる |
| 身がぱさつく | 強火で長く焼いた、休ませず切った | 75度C到達後に10分休ませ、切る前に肉汁を落ち着かせる |
| 香りが弱い | レモングラスや根を細かく潰せていない | 1mm幅に切ってから潰し、繊維を短くして香りを出す |
| たれが塩辛い | ナンプラーを追加しすぎた | ライム果汁小さじ2と砂糖小さじ1を足し、もち米と一緒に食べる |
鶏肉の安全確認は、料理の雰囲気より優先です。厚生労働省の家庭向け食中毒予防では、加熱する食品は中心部75度Cで1分以上が目安とされています。屋台のような焼き色を狙う日でも、中心温度を見てから皮を仕上げる順番にしてください。
丸鶏ではなく鶏もも肉4枚にすると現実的です。厚い部分に5mm深さの切り込みを入れ、皮を上にして弱めの中火で10分、返して8分、最後に皮を上へ戻して強火で2分。焦げやすい場合はアルミホイルをふんわりかぶせます。
ナムジムジェオと食卓|もち米でたれを受ける
カイヤーンを日本の夕飯に出すとき、白ご飯でも食べられます。ただ、イサーンらしく食べるならもち米が強いです。もち米を小さく丸め、ナムジムジェオを少し吸わせ、焼き鶏の皮と一緒に食べる。スプーンでたれをかけるより、もち米が味を受け止めてくれます。
ナムジムジェオの要はカオクアです。もち米を乾いたフライパンで弱火から中火にかけ、8分ほど振りながら乾煎りし、薄いきつね色になったらすり鉢で粗く砕きます。粉にしすぎるとたれが泥のようになるので、粒の半分が残るくらいで止めると、噛んだときに香ばしさが出ます。
辛さは鍋全体ではなく、たれ側で調整します。子どもや辛味が苦手な人がいる日は、唐辛子を小さじ1/3だけにし、大人用の小鉢に追加の唐辛子を置きます。カイヤーン本体を辛くしすぎない方が、ソムタムやラープと合わせるときにバランスが取りやすいです。
| 食卓の組み方 | 向く場面 | ひとこと |
|---|---|---|
| カイヤーン、もち米、きゅうり | 平日の夕飯 | 辛味を控え、焼き鶏を主菜にする |
| カイヤーン、ソムタム、もち米 | 週末のタイ献立 | 酸味と辛味がはっきり出る王道の組み合わせ |
| カイヤーン、トムカーガイ、白ご飯 | 家族向け | 白いスープが辛味を受け、食べやすい |
| カイヤーン、パッタイ、青菜炒め | 来客向け | 麺、焼き物、野菜で皿の役割が分かれる |
レモングラスやナンプラーを買った日なら、同じ材料で次にトムヤムクンへ進むのも自然です。もう少し北タイ寄りにするならカオソーイ、炒め物に寄せるならパッタイへ。香草を一度で使い切ろうとせず、冷凍して二、三回に分けると買い出しが楽になります。
保存と温め直し|皮を戻すならフライパン
焼きたてが一番ですが、カイヤーンは作り置きもしやすい料理です。粗熱を取ったら骨付きのまま浅い保存容器へ入れ、冷蔵で2日を目安にします。ナムジムジェオは別容器に分け、カオクアが水分を吸いすぎたら食べる直前にライム果汁小さじ1を足します。

温め直しは電子レンジだけだと皮がやわらかくなります。まず600Wで1分30秒温め、中心がぬるい場合は30秒追加します。その後、フライパンを中火で1分温め、皮側を下にして30秒から1分焼くと、皮の香ばしさが少し戻ります。焦げそうなら油は足さず、火を弱めてください。
冷凍する場合は、骨から外して1食分ずつ包みます。冷凍で2週間が目安です。解凍は冷蔵庫で半日、再加熱は電子レンジ600Wで2分から始めます。冷凍後は皮の食感が落ちるので、翌日は刻んでチャーハン、汁麺、サラダの具に回す方が無理がありません。
もち米は冷蔵すると固くなりやすいので、残すなら一食分ずつラップで包み、冷凍します。食べるときは霧吹きか水小さじ1を振り、ラップのまま600Wで1分30秒温めます。もち米が戻ると、ナムジムジェオのたれを受ける役も戻ります。
よくある質問
Q1. 丸鶏ではなく鶏もも肉で作れますか?
作れます。鶏もも肉4枚、合計900g前後を使い、厚い部分に5mm深さの切り込みを入れてください。焼き時間は炭火なら皮を上にして12分、返して8分、最後に皮を戻して3分が目安です。中心温度75度Cを確認してから休ませます。
Q2. レモングラスがありません。何で代用できますか?
完全な代替は難しいです。どうしてもない場合は、しょうが薄切り2枚、ライムの皮小さじ1/4、にんにくを使うと香りの方向だけは寄ります。ただしカイヤーンらしさは弱くなるので、初回の買い出しで一点だけ通販を見るなら冷凍レモングラスを優先してください。
Q3. パクチーの根が見つかりません。
パクチーの茎30gで代用できます。根は香りが太く、屋台の焼き物らしい土っぽい香りが出ますが、日本のスーパーでは葉だけで売られることが多いです。茎を1cm幅に刻んでから潰すと、根ほどではないものの十分に香りが出ます。
Q4. ナムジムジェオを甘いチリソースに変えてもよいですか?
食べられますが、料理の印象はかなり変わります。甘いチリソースは丸く、子どもにも食べやすい一方、カオクアとライムの香ばしい酸味が出ません。初回はナムジムジェオを少量だけ作り、辛味だけ控える方がカイヤーンらしくなります。
Q5. 炭火がない場合、オーブンだけで満足できますか?
満足できます。炭の香りは弱くなりますが、網をのせた天板を使い、190度Cから200度Cへ上げる二段焼きにすると、皮が蒸れにくくなります。最後にフライパンで皮側を30秒焼くと、香ばしさを補えます。
Q6. 前日から漬けても大丈夫ですか?
冷蔵でひと晩までなら大丈夫です。12時間以上漬ける場合はナンプラーを大さじ2に減らし、焼く直前に塩気を見てください。長く漬けすぎると表面が締まり、焼いたときに身が固く感じやすくなります。
参考文献
- Thai Cookbook TV: How to Make Gai Yang — 背開きにした鶏を焼く家庭向け手順、屋台料理としての位置づけ、香味だれの基本構成を参照。
- Temple of Thai: Thai Barbecue Chicken Recipe — 魚醤、こしょう、にんにくを使うタイ式バーベキューチキンの下味を参照。
- Simply Suwanee: Gai Yang Thai Grilled Chicken — イサーン料理としての説明、
gaiとyangの意味、もち米と一緒に食べる文脈を参照。 - BrassWok Thai Cooking Class: Gai Yang — プーケットの料理教室によるグリル工程、香味野菜、下味の考え方を参照。
- 厚生労働省「家庭での食中毒予防」 — 鶏肉を含む加熱調理食品の中心温度、安全確認、調理器具の使い分けを参照。













